ムートンの話・その1

いきさつ|ムートン工場に行くまで

shornchan むかしから、ムートンブーツやラグ・医療用(褥瘡防止)に使われてきた「ムートン」。
 「ムートン」って、つまりは羊の毛皮なんですが、寝具では「ムートンシーツ」という最強の敷き寝具が有名です。


 先日、機会があってこのムートンシーツを自腹で購入、実際に寝てみて驚いたんです。
「凄くよく眠れる!」「今までにない快適な寝心地!」と感動しました。
※↑↑私の感想です。すべての人に効果効能を保証するものではありません。

 これまでも、ムートンシーツを使うと良さそうなお客さまにはお勧めして買って頂いてました。
アレよかったよ~という声もたくさんいただいてます。
しかし、実際に気持ちよさを体験してみると…、ムートンシーツについて、俄然気になり始めました。

そんな時、メーカーさんからお誘いが。
「ムートンの工場見に行きませんか?」
「なめしから行っている国内のムートン工場は、ココともう1軒くらいですよ(2023年現在ではこの工場だけのようです)」
「い、行きます。」
若干かぶせ気味に(笑)返事をしました。これは勉強してこなくっちゃ。

ムートン工場は辺境の地でした

naraaozora

10月某日、良く晴れた秋の日でした。

メーカー営業さん(この方、私が小学生の頃のウチのお店の担当さんでした)の運転する車で京都市内を出発。
車で1~2時間でしょうか。奈良の山中に入っていきます。

yamamichi

↑ピンボケです。走行中ですから。

環境に配慮して工場の排水をキレイにする施設が必要との事、そのため
奈良の山中にまとまって皮革工場団地(だったと思います)を形成しているそうです。
その中の一角が「ムートン工場」マスダさんです。

masudamon

とりあえず、門の前で記念撮影。鉄板です。

空気も良くって気持ちよかったです、という事は、環境に優しい清潔な工場なんですね。
まずは、ムートンクリーニングの工場から見学したんですが、この話はまたの機会に。
クリーニング工場も興味深い話がたくさんありました。

ムートンの生産工程

はい、ここから本題です。

 ムートンの製造工程は、ざっと大きく分けて

  1. 皮の加工(なめし)
  2. 毛の加工(シャーリング)
  3. 仕上げ・組立

という具合です。

1.皮の加工工程|入荷した原皮

mutonsio まずは、入荷した原皮です。ここのムートンは原料にもこだわりが。
なにしろ、原料で製品の出来が6割決まってしまうそうです。

 

こだわりその1|原皮はオーストラリア「ヴィクトリア州」産のみ

 オーストラリアのヴィクトリア州産の厳選された原皮しか使いません。
見学に行った時、工場の社長さんは不在でした。オーストラリアの産地で原料の選定と買い付けに行っているとか言われていました。

他の産地(アメリカやその他発展途上国)では、成長が早すぎて毛の密度(←実はこれが重要)がよくなかったり、均一な品質の原皮が揃いにくかったりするそうです。
しかも、毎年工場の社長さんがオーストラリアに飛び、一枚一枚(!!)原皮のチェックをしているそうです。

こだわりその2|夏を越していない原皮のみ使う

ヴィクトリア州産の中でも、夏を越していない原皮を使います。
ムートンは夏を越すと、強い紫外線でウールが痛んでしまうからです。

春の終わりに塩漬けされた原皮が船便でやってきます。
見学に行った時(10月某日)は、ちょうど今年の原皮の入荷途中でした。年に1~2か月のこの時期だけです。

「10月だったら夏越えてるのでは?」というアナタ。
オーストラリアは南半球なので、日本と季節が逆なんです。
私も勘違いしていました。

こだわりその3|原皮は冷蔵保存する

 reizoukoここでは、原皮は塩漬けして冷蔵保存しています。

倉庫の中で原皮の横にならんで写真を撮ったのですが、結構寒かった


 原皮を冷蔵保存するのは世界でここだけだそうです。
 塩漬けしてあってもやっぱりナマモノ・タンパク質のカタマリですから、「変質を避ける」という点では間違いないですね。ウーンすごい。

1.皮の加工工程|塩抜き・なめし



↑塩漬け保存された”ムートン原皮”を塩抜きします。

kama1 

次に「なめし」ます。

「なめし」とは皮を腐らなくする加工です。
ココも重要な工程です。なめしが悪いと毛がボソボソに抜けたりします。
↑上画像の赤いヤツがなめし用のおっきなカゴです。

おそらく、事前の白なめし用だと思います。
クロムなめしは一枚一枚手作業で塗られてました。

その昔、なぜか家に中国製の安物ムートンラグがあったんです。
ある日帰宅すると、うちの子(当時小学校低学年)が2人で「ハゲた!ハゲた」とゲラゲラ笑いながらムートンの毛をむしっている現場に遭遇

安物ながら、まあまあ暖かかったムートンラグが「バンカーだらけのゴルフ場」状態に。
「ココは全英オープンか」と突っ込みました。
※ちゃんとしたムートンは、虫が付かない限り子供がむしった位ではハゲません

話がそれました。一般的ななめしの種類をちょっと紹介

1.ホルマリンなめし

ホルマリン漬けして乾燥する「なめし」。
原皮(毛の根元、皮の部分)の色が黄色っぽくなっているものはコレ。
洗うと、ホルマリンが水に溶けだし乾燥後、干物の様な原皮になるものも。

ホルマリンはホルムアルデヒドの水溶液なので、人体に対して…あんまりよくないです。

2.白なめし

硫酸アルミニウム・合成タンニンによる「なめし」方法。

  • 原皮(毛の根元、皮の部分)の色が真っ白になっていることが多い。
  • 耐久性がイマイチ。
  • 洗濯後もホルマリンなめしと同様カラカラになることもある。

また、原皮が硬くなりやすいです。



↑なめした皮の色比較です。

3.クロムなめし

kurom

三価クロムを使った「なめし」。

  • 原皮(毛の根元、皮の部分)の色は空色、まではいきませんが少し青っぽい色になります。
  • 耐久性・対洗濯性に優れ、処理後の原皮は熱にも強い。
  • 三価クロムは、土中や人間の体内(2mgだったかな~)にも存在する安全な物質で人体にも優しい。
  • 難点は…三価クロムのコストが高い事(笑)なので、クロムなめしは、廉価品には採用されない。

と、いう感じです。

こちらの工場では、「前なめし」として2の白なめしを施し、さらに原皮の奥までしっかりとクロムを浸透させる「クロムなめし」をしているそうです。
念が入ってます。さすが信頼の日本製!!



↑1枚1枚丁寧にクロム液の塗布作業中の図です
安価なものはまとめて液につけるため、しっかりクロム液がつかないこともあります。

2.皮の加工工程|乾燥・ステーキング

steking

続いてなめした原皮を乾燥し、柔らかく(ステーキング)します。
皮の加工はざっとここまでです。

続いては毛の部分の加工です。
長くなったので続きは次のページ(ムートンの話・その2)で。